わかめごさいのゴミ箱

死して尚インターネットに居座り続ける男

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『はいはい、ライスフラワーね。何グラムだい?』

『あ、えっと、その……に………』

『あのねお客さん、悪いけどもうちょっと大きい声で喋ってくれないと聞こえないよ。あたしゃもう耳が悪くてさ』

『あ、はい、すみませ……2キロで、おねがしま……』

『2キロね。どうも、ありがとさん。』

『ありがとごまし……(シュタタタ』

『…変な子だねぇ』

 

 

 

「(ライスフラワーを2キロで、お願いします)」

上手く言えなかった言葉を、練習する。

次は言える。次は必ず上手くいく。次こそは。次こそは。

…一体何度目の"次こそは"だろう…いつになったら人と目を合わせて話せるのかな…。

 

 

「あんたまた知らない人と上手く喋れなかったんでしょ」

「あ、ラムネちゃん…」

「気にしなきゃいい」

「ですが、私……」

「別に喋れないわけじゃないのは知ってるよ 長い付き合いだし」

「うん…」

「喋れる人とだけ喋ればいいんじゃない そういうのがまかり通る世の中にはなってるよ」

「そうです、ね………」

「…ま、納得行かないなら頑張ってみれば」

「……」

「あたしバイトあるから じゃあね」

「…はい、頑張ってください」

「別に頑張るとかないけどね 適当にやるだけ」

 

 

ラムネちゃんは、私の隣人で幼馴染。

年下なのにしっかりしてる。無愛想でいっつもやる気無さそうにしてるのに、発音が綺麗だからハキハキ聞こえるし愛嬌もある。運動も得意で所作がかわいいから、"戦うアイドル"がコンセプトの事務所にスカウトまでされて、今は雇われアイドルをしてる。

それに比べて私は…。人と目が合わせられなくて、会話ができなくて、いつも怯えてて、運動もからっきしで…。なんにも出来なくて、無職。たまたま生まれが良かっただけで、私にはなんにもない。

 

 

「帰ってきたか、バカガキ」

「ら、ラーヤさん…その、えっと……」

 

 

ラーヤさんは素行不良で父さんのお屋敷から飛ばされた、私の家のコンシュルジュ。私と同じウェディの女性だけど、小さくて可愛い。父さんから勘当されたのは同じなのに、私は図体ばっかり大きくて、可愛げがない…

 

 

「バカガキっていうの、や、やめてくれませんか」

「あぁ?いつも言ってるだろ。こっちはあんたがガキの時から面倒見てんだ。今更お嬢様なんて呼べっかよ。」

「お、お嬢様じゃなくてもいいから…」

「いいんだよ。バカガキで。あたしからすりゃまだまだバカなガキってこった」

「は、はぁ…」

 

 

私に少しでも能力があれば、もっとまともな扱いをしてくれるのかな…。

 

 

「ところでよ」

「は、はい」

「あんたもそろそろ働いた方がいいんじゃねえか?」

「そ、そう、ですよね…働きたいとは…常日頃から思って…」

「あたしの給料はご主人様から貰ってるから別に変わんねーんだけどよ。そろそろ金を稼ぐことの意味っつーか、そういうの知っといたほうがいいんじゃねえか?と思ってさ」

「(お金を稼ぐことに対して誠意がない人に、言われたくない…)」

「おーい聞こえてんぞ!」

「ひっ!ご、ごめんなさ…!」

「ったく…ほら(ファサ」

「あの、これは…?」

「いくつか依頼を見繕ってやったからよ。最初っから続けんのはガキじゃ難しいだろうし、単発のやつ。」

「あ、ありがとうございます…」

「はいよ。そんじゃ、頑張りな。あたし今日は帰るから」

「あ、はい、お疲れ様です…」

「あーかったるい!今日はウーバーにすっか…(スタスタ」

 

 

 

…単発バイトかぁ…。

『畑荒らしの虫駆除』

虫は、やだなぁ…

 

『薪割り 未経験者歓迎』

力仕事は無理だよ…

 

『嘆きの亡霊討伐』

無理無理、こんなの絶対無理だって…ラーヤさんちゃんと内容見た上で選んでるのかな…?

 

『綿花摘み 簡単作業です』

…これなら私でもいけるかな?

 

ていうか、全部明日までの依頼だ…絶対明日行かないとかぁ…

 

やれるだけ、やってみようかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いちゃった…」

意外とこぢんまりとした酒場。看板こそ色褪せてるけど…

 

「いらっしゃいませー!」

 

ピカピカに磨かれた床から、大事にされてるのはわかる。

 

 

「ご注文ですか?それともご依頼傭兵ですか?」

「えっと、依頼傭兵、だと思います…」

「はい!でしたら、あちらのカウンターの方からお願いします!」

「あ、はい。   ………!」

 

 

 

男性だ。髭の生えた、サングラスをしてる、私が1番体が強ばるタイプの、男性。私に向かって、手招きしてる。案内されたから。

 

 

「おーい嬢ちゃん!こっちだぜ!」

 

 

足が震える。でも、行くしか、ない。

 

 

「お、おおおねがいしむす」

「おうおう…って、随分立派な背丈だな。嬢ちゃんなんて言って悪かった。で、今日はどうするんだい?」

「あ、あ、あ、ああの、えっと、、あの、その」

「おいおい…自分より30cmも低い人間にびびってちゃ世話ないぜ。男慣れしてねぇんだな?そうだろ。」

「あ、その、えっと、その…」

「…まぁいいさ。手に依頼書を持ってるのを見るに、単発だな?どれ、見せてみな」

「あ、はい、えと、あ、あ」

「おうこれか。"嘆きの亡霊討伐"…ね。はい受注したよ。」

「あ、ちが、えと、ちが」

「血が騒ぐってか?はっはっは、意外と血気盛んじゃねえか。ほら、貸し槍出すから行ってきな」

 

 

 

違うのに。たまたま1番上にそれがあっただけで、私には到底出来ないのに。どうしよう。

 

 

 

「…おいおい、大丈夫か?あいつ…」

 

 

 

槍が重い。持てない。引きずって、とりあえずこの辱めを受ける空間から出る。それだけしか考えられない。とにかく出たい、出たい、出たい。

 

 

 

 

これからの身を案じてトボトボ歩いていたら、依頼の場所に着いていた。

 

 

「もう、やるしか、ない」

「もしかしたら、強そうなのは名前だけで弱いのかも」

「清めの塩は持ってきたし、それでお祓いして終わりかも」

「大丈夫、大丈夫、大丈夫」

「大丈夫、大、丈………」

 

 

『オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛!゛!゛』

 

 

どうしよう。絶対強い。逃げる?でも私の足じゃ追いつかれる。戦っても勝てない。塩は効くかわからない。私、死ぬの?

 

 

 

『オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛』

 

「嫌っ!!!」

 

 

 

 

 

全てが、スローモーションに見える。これが、走馬灯?もう私、死ぬんだ。

 

 

あれ?私、いつの間に槍で防御なんて…さっきまで持てなくて、引きずってたのに。

 

 

なんだか、体が軽い。私、本当に死んじゃうんだ。

 

 

 

死にたくない。

 

 

 

死にたくない。死にたくない。

 

 

 

死にたくない。死にたくない。絶対に、死にたくなんかない。

 

 

 

 

「こんなところで、死んでたまるかァ!!!」

 

 

 

 

『契約しろ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は自分の身に何が起きたかわからなかった。でもその時既に、体は動いていた。鈍重な槍を手にして飛び上がり、亡霊の頭上に塩を振り払い、そのうちの1粒の大きな塩を目掛けて槍を放り投げていた。その先にあるのは、亡霊の喉笛。

 

 

 

「いっけええええええ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ゥ゛ウ゛ウ゛ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァァァ……」

 

 

 

亡霊の体が消えていく。私の腕から放たれたとは思えないほど亡霊の体に深く突き刺さった錆色の槍が、ガランガランと存在感を放ったあと床に伏せた。

 

 

 

「勝った…の?」

 

 

 

「私、勝った、アハ、アハハ!アハハハハ!」

 

 

 

命があることの安堵よりも先に湧いたのは、勝利したことへの喜びだった。私の人生で、初めてと言っても差し支えない程の、甘美な勝利。 そして次に湧いたのは、更なる戦いを求める飽く無き渇望だった。私が生きる道とは、これのことだったんだ。

 

こうしちゃいられない。私は力無くへたりこんだ槍に手を貸し、片手で起き上がらせる。依頼の報酬でこんな借り物の贋作じゃない、私に相応しい獲物で更なる好敵手と戦うんだ。

 

 

 

そして、私を侮辱するコンシュルジュを、私を勘当した父さんを、私がなれなかったもの全てを手に入れた隣人を。

 

 

全て、全て見返すのだ。

 

 

それが私の、生きる道なんだ。

 

 

 

「…今日から私の名前は、」

 

 

 

 

『…カイミオ。』

 

 

 

 

「…ここからが、私の快進撃だ。」

私の、人生の、終わりの、始まり

忘れもしない。私が高校1年生だった時の、春。

 

 

もう桜も梅もとうに散って、自らが街路を彩ったこともすっかり忘れたような青さを携えた頃だった。

私はといえば、ちょうど■■■の関東コンクールへの予選を勝ち上がったところだった。

 

「夢、今日も満点のパフォーマンスだったね」

 

まるで定型文と化したような先生の評価に、お決まりの文句でこちらも返答する。

 

「当たり前です。私ですから」

 

『1万人にひとり』と謳われ、持て囃され。お世辞なんて言葉も正しく理解出来ていなかったような少女…私は驕り高ぶっていた。私こそがこの時代を代表する■■■■■なんだと信じて疑わなかった。

 

「じゃあ、次の子も待ってるから。またね」

 

先生の挨拶を他所に、私は光り輝く将来を夢想していた。

日本が誇る最大の■■■■■としてステージに立ち、オファーが殺到し、そのどれもを突っぱねて世界へと羽ばたく。私の思い描く理想はいつだって美しく、私らしく、私という人物そのものであり、私がなるべき未来だった。

 

 

 

 

いよいよコンクール本番。もう幾許もないくらいで私の番が来る、というタイミングで、肩を叩かれた。知らない子だ。

色白で大人しそうで、押したら倒れちゃいそうなくらい弱々しくて、でも前髪に隠れた瞳だけは真っ直ぐ前を見据えているような不思議な子だった。

 

「あの、えっと…あなたの予選の演奏、聞きました」

「はぁ…どうも…」

「それでえっと…すごく、良かったんだけど」

 

けど?

私の演奏にケチをつけるような言いぶりに、思わず左口角がピクリと動く。

 

「あ、えっと…その…すごく綺麗だったんだけど、なんだかあなたらしさを感じなくて」

 

私らしさ?こいつに何がわかるんだ。凡人の分際で。

 

「悪いことじゃ、ないんだけど…なんか…上手くまとまらないや、ごめんなさい」

 

それだけ言い残して彼女はその場を立ち去った。あまりの突然の出来事に、私は追いかけることもできなかった。

私らしさがない?私の、美しい人生街道を完璧に表現した演奏が?信じられない。私が間違えるわけが無い。

「夢、出番だよ」

先生からのコールで我に返る。

「ええ、行ってきます」

私が間違えるわけが無い。私が間違えるわけが無い。

私らしさとは、美しさだ。何処の馬の骨かもわからないようなやつに言われる筋合いはない。見ていなさい。

 

 

 

 

 

「桐崎夢路さんでした。ありがとうございました。」

結果から言うと、私はきちんと完遂した。完璧の2文字を称えた輝かしいトロフィーが私を待っていた。

 

そう、思っていた。

 

 

「鈴妥、いってらっしゃい」

先生の声だった。私以外の生徒など興味はさらさらなかったが、目に映るのが先程の馬の骨ともなれば話は違う。

リンダ、というのか。どれほどの実力なのか、見せてもらおうじゃないの。

 

 

 

 

 

「岡本鈴妥さんでした。ありがとうございました。」

結果から言うと、惨敗だった。美しさと迫力、優しさまでをを兼ね揃えた彼女の演奏は、聞く者全ての心に寄り添い、激励し、魅了させた。人生で初めての敗北だった。

先生が私に声をかける。

「すごいだろ?鈴妥の演奏。あれが100万人に1人の逸材だよ」

 

それ以上何か喋られていたかどうかは定かではない。私の心は完全に折れていた。あんな傑物がいるのに、しかもこんな近くで。私は今までの人生、何をしてきたのだろう。世間知らずの生娘が、何を思って驕っていたのだろう。

 

「どう、かな…。あなたの心に響いたのなら、嬉しいのだけど」

床の一点を見つめて動かない私に声をかけてきたのは、鈴妥だった。

「あなたの演奏すごく素敵だから…奥まで見たくなっちゃって」

その台詞からは微塵も驕りや煽りは感じず、ただ純粋に私の演奏を聞きたいだけだと悟った。こんな私の"上位互換"がいるのなら、何故私は■■■なんて弾いていたのだろう。何故私は生きているのだろう。

 

 

 

 

気づいた時には高校は辞めていた。辞めていた、というよりは辞めざるを得なかった、が近いだろう。■■■も完全に断って意気消沈してしまった私はすっかり巣穴に閉じこもり、太陽光の存在すら忘れてしまっていた。

部屋の外からは毎日のように母のすすり泣きと父の怒号が聞こえた。もうどうでも良かった。ただ、全てが憎かった。私を囃し立てた奴、私を裏切った先生、私の人生だった■■■、私の全てを奪ったあの女。全てが美しかった私の人生が、全てが酷く醜穢で下卑たゾンビのように変わり、何度も蘇り私の海馬を貪ってくる。

 

いつか必ず殺す。もう私には、それしか無かった。

切り裂けど終わらない、悪夢の路にて

つんざくような悲鳴によって、人間に似た何かの私は今日も意識を叩き起こされる。県営団地の傍らにある憩いの場公園は、私にとってはこれっぽっちの価値も無いのだがどうやらそれは共通認識ではないようだ。学校帰りにその公園で遊ぶ子供たちは私の毎日の目覚まし時計と化していた。かけた覚えもないその目覚まし時計に舌打ちをしたところで、目を開ける。カーテンから漏れ出す西日は私を拒絶しているし、数字の4を指す時計の短針は私をこの世のものではないようなおぞましい目付きでこちらに目を配っている。もうこんな時間に起きる自分にもとっくに驚かなくなっていた。

 

私にとって"目覚まし"達程鬱陶しく忌々しい存在はいない。彼らには未来がある。彼らには友人がいる。彼らには夢がある。彼らには無垢がある。どれも私が持っていないものだ。もっと言えば、私が捨ててきたものだった。いつか"目覚まし"達に復習せねばならぬと燃え上がる私の感情たちは、その意思に反して臆病者だ。行動に移せるはずもなくただぼんやりと浮かび上がり、彼らをカーテンの隙間から見つめることしかできない。

公園の向こうの通りで、黒い服を着た私とさほど背丈の変わらない人たちがこちらに向かって歩いてくる。中学生だ。つい一昨年まで私もその括りだったのだが、今やその肩書きは失い部屋の隅でうずくまるゴミの掃き溜めと似たような存在になってしまった。よく見ると彼らのうちの1人は私の弟、翔だった。成績優秀で誰にでも分け隔てなく優しく、好青年な弟。去年の夏に高校を中退してから、私は翔が眩しくて顔を見れていない。

程なくしてチャイムが鳴る。父親が出たのだろう。声が聞こえてくる。

「ただいま」

「ああ、おかえり」

何度使い回されたかわからない挨拶のあと、私の部屋に向かって足音が近づく。数秒後、襖が開いた。

「ただいま、姉さん」

「…うん」

窓の方を見つめたままの素っ気ない返答を聞いて翔はそのまま襖を閉じ、自身の部屋へと戻る。私が引きこもってからというもの、翔はなにかにつけ私を気にかけているようだった。私はそれに姉弟愛とはまた違う、下卑た何かを感じ取っていた。或いは私の中のどす黒いもやから生じた、甚だしい思い違いなのかもしれない。とにかくその同情にも嫌悪にも心配にも見える弟の行動が私は気に入らなかった。

 

ふと尿意を感じ、恐る恐る部屋を出る。父親と会話はしたくないから、そうせざるを得ないのだった。

「おい盗っ人、まだ生きてやがんのか。」

息を殺して身を潜めて歩くその姿はまさしく盗っ人だった。見つかってしまった。また父親からの罵倒が始まる。

「俺から由紀を奪って、将来の安定を奪って、次は何を奪うつもりだ?穀潰しが。」

由紀は、私のママだ。私が███をやめた時、父親とママは喧嘩の末ママが出て行く形で離婚した。私に当たりの強い父親から引き剥がそうとしたが、それは出来なかった。だが、ママが私のことを捨てたとは思わない。出ていった日に本当に辛くなった時電話をかけてね、と言い渡された付箋は、080から始まるママの携帯番号が書いてあった。肉親から罵詈雑言を浴びせられたが、最悪の場合私には縋るものがある。そう考えるだけで幾らか気持ちが落ち着いた。父親を無視して事を済ませ、部屋に戻ろうとしたところで事は起きた。

突然白くなる視界。倒れる感覚。どうやら父親に後ろから殴られたようだった。私のどの行動が逆鱗に触れたかわからないが、父親にとっては堪忍袋の緒が引き千切れる程のことだったようだ。間もなくして後頭部に痛みと、父親の荒らげる声が聞こえてきた。

「今すぐこの家から出ていけ。もうお前に用は無い。どこへでもいってくたばれ。」

私はその言葉に安心した。この地獄のような日々から合法的に抜け出せるのなら、それで構わない。

「わかりました、お世話になりました」

倒れ込んでいた私は起き上がり、頭を下げる。荷物をまとめる準備をするため、父親の横をすり抜け自室へと戻る。父親は息を荒らげて立ち尽くしたあと、玄関からどこかへと立った。

 

 

自室で荷造りをしていると、翔がやってきた。私は荷造りに集中することにした。

「姉さん、大丈夫!?」

表情こそ見てないが、心からの心配にも聞こえる声色だった。

「大丈夫。今日までありがとう、お疲れ様」

きっとざまあみろと思っているに違いない。私は怒りで声が震えるのを我慢してそう発した。

「やだよ姉さん、俺も一緒に行くよ」

まるで私にまで優しさを振りまいているかのようなお世辞。上手くなったものだ。

「来ないで。あんたにはあんたの夢があるでしょ」

「違うよ姉さん、俺は…」

そういうと黙りこくってしまった。夢を諦めて捨てた人間が大層なことを言うもんだ。押し黙る翔をよそに私は荷造りを進める。

 

 

私はあまりのことに、一瞬何が起きたか理解が出来なかった。翔は私を押し倒しネクタイを緩めていた。2歳下の翔は私では到底太刀打ちできない程の力でねじ伏せる。私は突如理解した。翔は…弟は、決して私を侮蔑などしていなかった、味方だったのだ。膨れ上がった感情は爆発し、私の中で…あの父親と同じ悪と化してしまった。私は全てを諦めるしかなかった。怒りや憎しみは不思議と湧かず、ただ後悔だけが残った。真っ直ぐで出来のいい弟は、私のせいで犯罪者になってしまったのだ。

 

 

事が済んだあと、弟はひたすら私に謝っていた。私は弟と話すことはもう何も無かったから、それに目を配るでもなく立ち去った。もう戻ってこないことを悟ったのか、彼は私のものだったベッドの上で横たわり泣いていたようだった。

私を閉じ込めていた空間のドアを開けると、既に日は沈んでいた。街路樹や街灯は私を睨んでいるが、今から救済される私には関係の無いことだ。私はスマートフォンで付箋に書かれた番号を打ち込む。0、8、0………

 

 

 

おかけになった電話は現在使われておりません。

 

 

………ああ、そうか………

 

 

黒にも白にも見える景色の中、おぞましい量の雨水が私を責め立てる。最後に縋るべき藁は朽ち果ててしまった。ママ…母親はもう私にはいないも同然だ。弟も父親も、全て私の中で死んだ。

絶望と同時に私は全てを理解した。この恨みが今は私の支えであり、全ての原動力であると。何もかも失った私が未だに死ねない理由を。この世に、"目覚まし"達に、家族に、███に、復讐を果たさねばならぬと。

桐崎夢路という女について

私のPC、「桐崎夢路」について


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画像はPicrewの「ダウナー女子の作り方」から勝手に拝借しております

 

 

将来有望なピアニストとおだてられて育ち、本物の天才と自分との力量の差を見せつけられ人生の全てを失った女性。引退後は介護学校に入るものの得た物は少なく、現在はコンビニの正社員として生計を建てている。今や生き甲斐はタバコと酒とネットのみであり、ピアノ1本で生きる予定だった彼女にはもちろん情人はおらず全てを洗い流すように毎日を送っている。(キャラシートの説明欄から引用)

 

桐崎 夢路
この世の不条理を一身に受ける女 当たり前だけどこいつが1番オリキャラで不憫 確かめてないけどてるぷげこんで1番低APPかもしれない(顔が良くないというより手入れを一切していないからかなり低い)イメージ元の曲、良いから聞いてね

元ネタ 芥の部屋は錆色に沈む(ボカロ曲) ペケ(漫画)より岡本夢路 (私のTRPG垢の説明から引用)

 

はい

見ての通り「将来に一切希望を持っていないキャラクター」となっています

また、子供が大嫌いです 未来があるくせして何も知らないような顔をしている子供が疎ましくて憎たらしくてたまらないんですね

かなりの酒好き…というよりもお酒に頼らざるを得ない生活を送っています

将来に、人間に、自分に絶望しているので生存願望が著しく低いです

 

細かい設定までついでに語ってしまいましょうか

 

彼女は10000人に1人の逸材と言われるほどのピアニストでした 関東のコンクールを総ナメし、これからの日本のピアノ界を牽引する天才とまで言われていた女性です もちろん幼い彼女はほんとうに自分が天才なのだと思っていました

高校1年生の春、彼女にとって人生最大の悲劇とも言える出会いがありました 関西から引っ越してきた、「1000万人にひとり」と謳われた夢路より3歳年下の本物の天才ピアニストです 本物はあっという間に現れると関東のコンクールを総ナメし、腕が認められそのまま風のように海外に去ってしまいます

本物が現れたせいで夢路は思うように演奏ができず、「ただの器用貧乏」と評価されるようになってしまいました 自分は本当はこんなもんじゃないと奮起しますが流れるような美しい演奏は夢路の手には戻ってきません いつしか彼女は演奏の手を止め、輝かしい舞台から姿を消しました

偽物は精神病に陥ってしまい登校できず高校を中退 両親の薦めもあって介護学校に入学しますが身に入らずまたも中退 現在はコンビニエンスストアで働いています

子供が嫌いなのは将来のある人間が嫌いだからなんですね 他のものを捨ててまでピアノ1本で生きてきた彼女はもう戻ることもできず進むことをやめてしまいました 明るい未来のある子供たちを見る度に自尊心が酷く傷つき己の左の手首を蝕むようです

 

 

なんて救いのねえキャラを作っちまったんだ

人間っておもしろ